こんにちは、株式会社ログラスで「フロントエンドチーム」という横断チームでエンジニアをしております、浅井 (@mixplace) です。
今回は「#私から見たFAST」シリーズ第2弾の記事として、横断チームのいちメンバーとしての立ち位置から「FAST というアジャイル開発手法を導入したプロダクト開発チームとどう向き合っていたか」という視点で、FASTで一緒に取り組んでみて感じた気付きや学びについて記していきます。
はじめに: プロダクトを横断する「フロントエンドチーム」で取り組んでいたこと
私は2024年夏よりフロントエンド領域の横断チームとして「フロントエンドチーム」を組成し、以下のような取り組みを横断的に行なっています。
- フロントエンド技術基盤の改善
- デザインシステムを構成するコンポーネント群の改善
- 各開発チームがフロントエンド開発を円滑に進めていけるための技術支援
ちょうどチームトポロジーでいう「イネイブリングチーム」ならびに「プラットフォームチーム」で期待される振る舞いを行なっているイメージだとご理解いただければと思います。
この半年間、フロントエンドチームで扱っていた開発エピックの1つに「データ量増大でパフォーマンス劣化が見込まれる共通UIコンポーネントの内部構造の刷新を行なう」というものがありました。
「Loglass 経営管理」は多くの企業さまでご利用いただいておりますが、「現在ご利用の企業さまの2〜3倍の企業規模感でも快適に動作するか?」を定期的に確認しています。 その中で、Webブラウザパフォーマンスの劣化起因となるコンポーネントがあることがわかり、アーキテクチャの刷新を行なうことで改善できることがわかりました。 将来起きうるであろうパフォーマンス問題を、お客様のご利用環境で顕在化する前に対処すべく、横断チームの特性を活かし先手を打つことにしました。
デリバリーまでの流れとしては、以下の2つのフェーズに分けて進めていきました。
- 新しいUIコンポーネントの作成: フロントエンドチームが共通UIコンポーネントを新たに作成
- 既存利用箇所の置き換え: 経営管理プロダクトで用いているパフォーマンス劣化懸念のあるコンポーネントを上記(1)で開発したコンポーネントで置き換えていく
「Loglass 経営管理」のプロダクト開発は、FAST というアジャイル開発手法で日々活動しています。 プラットフォームチームとして品質の良いコンポーネントを開発しながらも、FAST の理解を深めていきました。
特に「2. 既存利用箇所の置き換え」のフェーズについては、「Loglass 経営管理」のプロダクトチームが FAST によるアジャイル開発プロセスで日々活動していることから、私も FAST の中に入って取り組むこととしました。 経営管理プロダクトにコンポーネントが導入され、パフォーマンスの向上が見られてはじめて価値といえるからです。 コンポーネントの開発活動を並行して、FASTの理解を深めていくこととしました。
実際に「FAST」のアジャイル開発プロセスに入るにあたって意識したこと
FAST というアジャイル開発に一緒に取り組むにあたって、まずは「FAST ガイド」を一読するようにしました。FASTの公式サイトで公開されていますので、一度読んでみることをお勧めします。(日本語ドキュメントもあります)
FAST ガイドは、FASTを実践するためのルールやガイドラインをまとめたドキュメントで、 いわゆるスクラムでいう「スクラムガイド」に相当するものです。
私自身スクラムを通して過去3年ほど開発活動を行なってきましたが、この「FAST ガイド」はそのシンプルさに驚きつつも洗練された興味深いものでした。
特に私が注目したのは、「FASTの価値、原則、そして柱」という章です。
いずれもアジャイル開発全般に求められるものですが、FASTの中で開発活動を進めるにあたって、自分自身もチーム全体(FASTでは「コレクティブ」と呼称しています)で価値を最大化させるべく意識するようにしました。
具体的には以下の点にあたります。
FASTに入る前に: 現状の課題とやるべき理由を共有する
FASTには“コレクティブ”という概念があります。 ログラスでは「Loglass 経営管理」のプロダクト開発活動に取り組むメンバー全体を“コレクティブ”と定義し、プロダクトのディスカバリーからデリバリー、ビジネスゴールの達成までを担っています。
私はまずはじめに、コレクティブに対して「パフォーマンス劣化懸念のコンポーネントが存在しており、その解決に向けてフロントエンドチームが取り組んでいる」ことを、定期的にSlackで発信する活動を行いました。 現状課題と解決手段、また今後どうコレクティブに入って改善していきたいかを共有することで、プロダクトの課題を一緒に取り組みたい、必要なタイミングで一緒に協業できる体制を作りたかったためです。
FASTに入る前に: コレクティブメンバーの協力関係を築く
私がまず始めに取り組んだのは、コレクティブメンバーと信頼関係を築き、協力関係を得やすいようにすることでした。 FAST ミーティングに参加することはもちろんのこと、出社時にはコレクティブ内の多くのメンバーと意図的に雑談する時間を設けたりしました。 FASTの価値である「協働」「自律性」、FASTの原則である「チームプレーヤーであれ」を体現するためです。
特に品質(QA)面において、経営管理プロダクトのQAエンジニアとは、私がコレクティブに入る前から一緒にテスト分析設計を行なって協働を行なっていました。 理由はコンポーネントの内部構造刷新において、コンポーネント自体の品質を高めたかったからです。 共通UIコンポーネント自体の品質に問題があった場合、プロダクトへの導入やテストは一層困難な道のりとなってしまいます。
将来、コレクティブのメンバーと一緒にプロダクトに取り組むことになるため、アジリティを高める重要な活動であり、FASTの「コラボレーティブ」「チーム全体で価値を最大化する」という観点は通じるところだと思います。
透明性を保つ: いま取り組んでいること、これから取り組むことを公にする
フロントエンドチーム内で取り組んでいたコンポーネントの内部構造刷新に関わる活動アイテムについても、「現在取り組んでいること」「今後取り組むこと」を、ディスカバリーツリー形式にして、コレクティブに所属するメンバー誰もが見れる場所に掲示するようにしました。
ディスカバリーツリーとは、分解や進捗のトラッキング、そして高速な理解を可能にしつつ活動アイテム間に共通するコンテキストを持たせる上で有用な可視化ツールです。 FASTガイドより引用
また、コレクティブに入って一緒に取り組むようになってからは、“FAST ミーティング”の中で現在の状況を簡潔に共有するようにさせていただきました。
「今後の新機能開発」や「ユーザビリティの改善」に関わるディスカバリープロセスにおいても「新しいコンポーネントを利用して取り組むとパフォーマンス懸念が解消できそう、だからフロントエンドチームと連携しよう」といった動きがコレクティブ内にも見られるようになりました。
「今後取り組む新機能開発の際に使ってみよう」「コンポーネント置き換え作業を少し手伝ってみよう」という話題が各所からみられるようになり、協業が進むようになりました。
私自身もFASTで一緒に開発するにあたって、コンポーネントの仕様やフロントエンド実装にあたっての知識伝搬(ナレッジトランスファー)も進めることができ、コレクティブに対して寄与できた感覚が持てました。
おわりに: 自律性と透明性に向き合う大切さ
今回は、各機能開発チームを横断して活動する私が、どのようにして FAST を用いたアジャイル開発手法に向き合い、取り組んでいるかについてご紹介しました。
横断的チームから一時的に「FAST」のコレクティブに入って馴染みながら取り組めたのは、私がFASTガイドにある「FASTの価値」「FASTの原則「FASTの柱」にとても共感し、徐々に実践することができたからだと思います。
スクラムをはじめアジャイル開発の手法はいくつかありますが、その中でも FAST は「自律性」「適応性」「流動性」「コラボレーティブ」がより色濃く出たフレームワークだと感じます。特に、対話の姿勢、フォロワーシップのマインドセットが必要不可欠と感じています。
自然とフォロワーシップでプロダクト開発を通してプロダクト価値を上げたい、価値の源泉を構築していきたい方々とは非常に親和性が高いと感じています。 この特徴こそが、部署を超えてプロダクトとして最適・最善と思われるアクションが推進され、プロダクトをより価値の高いものにしていく過程を実感できました。
大前提、プロダクトをより良くしたい、お客様により快適な経営分析体験を提供したい思いは、変わりません。 そのためにも、「目的の明示」「透明性」「自律性」が重要であることを、今回の開発活動を通して感じました。
最後になりますが、ログラスでは2025年7月3日〜4日に開催される「開発生産性Conference 2025」でGoldスポンサーとしてセッション講演とスポンサーブースを設置して参加させていただきます。 FASTに参加しているエンジニアやマネージャーが参加しますので、是非お越しいただきお話できたら嬉しいです。
次回の「#私から見たFAST」シリーズの記事は、「プロダクトマネージャーとFAST」「プロダクトデザイナーとFAST」というテーマで、プロダクトマネージャー・プロダクトデザイナーがFASTへどう向き合ってきたかを紹介したいと思います。次回もお楽しみに。
イベント案内
7月にアジャイルやFASTをテーマにしたイベントを開催します!
どちらもオンライン / オフラインのハイブリッド開催で、オフラインでは懇親会もご用意しています。ぜひご参加ください!
7月17日(木)19:00- 「アジャイル×AIの今と未来を語る」日本にアジャイルを広めた先駆者・平鍋氏とログラスCTOが「アジャイル × AI」をテーマに対談します。
FASTについてもテーマに取り上げ、両者の視点から語ります。
7月24日(木)19:00-「Loglass Tech Talk vol.6 FAST実践のリアル〜壁にぶつかり、悩み、試し続けた1年間〜」
FASTを実践した1年間のリアルな苦悩や試行錯誤を、エンジニア、QA、PdM、デザイナーといった各ロールの視点から発信します!