はじめに
ログラスは2025年7月3日-4日に開催される「開発生産性カンファレンス2025」にGoldスポンサーとして協賛しており、7月3日14:00からはVPoEの飯田が登壇します。
飯田の登壇に向けて、FASTについて色々な視点から知っていただくために、「#私から見たFAST」シリーズとして今週から4週連続で記事を公開します!
本記事は連載記事の第1弾です。
FASTにおけるオンボーディングについて、実際に経験したメンター(鈴木)とメンティー(石川)の両方の視点から、その効果や課題について共有したいと思います。
FASTとは?
ログラスではスケーリングフレームワークとしてFASTを採用し、プロダクト開発を進めています。
本記事ではFASTについての詳細な説明は省略します。
詳しくはFAST Guideをご覧ください。
また、ログラスがFASTにチャレンジすることになった経緯については以下の資料をご参照ください。
本記事で出てくる用語
- コレクティブ:プロダクト全体を開発する人々。ログラスでは経営管理プロダクトを担う全員を指す。
- チーム:コレクティブから流動的に作られる個別のチーム。通常、各メンバーは自身が選んだチームで活動する。
- バリューサイクル:FASTにおける活動サイクル。ログラスでは2〜3日を1つのバリューサイクルの期間としている。
- FASTミーティング:バリューサイクルの区切りで実施する打ち合わせ。情報の同期やチーム編成の見直しを実施する。
ログラスにおけるオンボーディング
ログラスでは、新メンバーのオンボーディングを3ヶ月のマイルストーンで区切って進めています。新メンバー(メンティー)にはメンターが1名つき、技術面や組織面でのサポートを行います。
まずはおおまかなオンボーディングの流れを説明します。
1ヶ月目:ドメインと組織文化への理解
最初の1ヶ月は、ログラスのドメインや組織文化に慣れることを重視します。
2ヶ月目:コレクティブへの合流
2ヶ月目からはコレクティブに合流し、本格的に機能開発を進めていきます。
- チームでの本格的な開発業務を開始する
- チーム内でのコードレビューやペアプロを実施する
- アラートや問い合わせを段階的に対応する
- FASTミーティングへ参加する
3ヶ月目:自立したメンバーへ
3ヶ月目には、一人のエンジニアとして自立して開発を進められる状態を目指します。
- 機能開発の一連の流れを自立して実施する
- チーム内での知見共有やレビューへ積極的に参加する
- アラートや問い合わせを主体的に対応する
- 必要に応じて新しいチームへ参加する
この3ヶ月間のステップを通じて、新メンバーが無理なくチームに馴染み、かつ確実にスキルを身につけられるような環境作りを心がけています。
メンター(鈴木)からみたオンボーディング
メンターとして新メンバーのオンボーディングに関わった経験から、FASTにおけるオンボーディングの良かった点と課題・改善点を共有します。
良かった点
FASTの特徴的な点として、開発アイテムの選択の自由度が高いことが挙げられます。
- 特定の機能や領域に限定されず、様々な開発アイテムを候補として検討できる
- メンティーの興味や経験に合わせて、適切な難易度の課題を選択できる
- 技術的な課題だけでなく、開発環境の改善やツール開発なども選択肢に入れられる
- バリューサイクルが短いため、小さな成功体験を積み重ねやすい
課題と改善点
一方で、以前のスクラムチームと比較すると、チームのメンバーが流動的に入れ替わるようになったことにより、チームでメンティーを受け入れるという意識が希薄になりがちです。
- メンターへの依存度が高くなり、他のメンバーとの関わりが限定的になる可能性がある
- チーム全体でのナレッジ共有や相互学習の機会が減少する
- メンターの負荷が高くなる
これらの課題に対して、以下のような改善が必要だと考えています。
- チーム全体で新メンバーを受け入れる意識を醸成する
- FASTミーティングでの積極的な対話を促進する
- ペアプログラミングやモブプログラミングの機会を増やす
- メンター以外のメンバーとも気軽に相談できる雰囲気を作る
FASTの良さを活かしながら、チーム全体での成長を促進できる環境作りを目指していきたいと思います。
メンティー(石川)からみたオンボーディング
メンティーとしてFASTのオンボーディングを経験し、感じたメリット、課題、そして改善アイデアを共有します。FASTミーティングで活用されるOST(※)の経験も踏まえています。 (※オープン・スペース・テクノロジー:FASTの着想元となった対話・議論手法)
良かった点
- 新メンバーのモチベーション維持
- 少人数チームで貢献が明確になり、主体的に関与しやすい
- コレクティブ全体に対してチームの状況の共有をバリューサイクルごとに毎回行うので、自律性が高くなり目的意識がはっきりする
- オープンで安全なコミュニケーション
- OSTの原則の1つ「ここにやってきた人は、誰でも適任者」によって、就職・転職後によくある「自分はここにいるのにふさわしいのかどうか」という悩みが打ち消される
- ログラスにおいては、会社全体の「新人の意見は仕組みをアップデートする宝だからどんどん言ってほしい!」という空気とも相性が良く、より発言しやすい環境
- 挑戦を後押しする文化
- 「手を挙げた人がリーダー」だから新人でも新しいことにチャレンジできる
- もちろん周囲も全力フォローしてくれる姿勢がある
課題と改善点
- 固定されている要素が少ないので、慣れるのが難しい
- FASTでは実際にタスクを進める方法はチームごとにバラバラで、FASTのアプローチ方法も流動的に変化する。そのためオンボーディング対象が特定できず迷子になってしまう
- FASTでは実際にタスクを進める方法はチームごとにバラバラで、FASTのアプローチ方法も流動的に変化する。そのためオンボーディング対象が特定できず迷子になってしまう
- オンボーディングチームにメンター以外が関わりにくい
- 前述の「チームでメンティーを受け入れるという意識が希薄になりがち」と共通で、チームが流動的なのでオンボーディングの責任をチーム単位で持ちにくい。その結果メンター以外のサポートメンバーが入りずらくフォローが不十分になる
これらに対する解決策や改善のアイディアは、下記のようなものがあるかと思います。
- 具体的なルーティンよりも、それを実行させているFASTの考え方を理解するように意識する
- 「オンボーディング用チーム」にしない
- チームの主目的は事業上の成果達成に置き、そのプロセスの中で新メンバーが学び貢献できるような設計にする。これにより、メンター以外のメンバーからの自然なサポートも期待できる
改善に向けた取り組み
上記で挙げた課題を解決するため、ログラスでは以下の改善を進めています。
- チーム全体で新メンバーをサポートする文化の醸成
- メンターの責務とチーム全体の責務の言語化
- メンター以外のチームメンバーとの1on1の実施
- FASTの考え方を重視したオンボーディング設計の見直し
- FASTの原理原則や思想を理解することを重視したオンボーディングコンテンツの拡充
まだまだ着手できていない改善点も多いですが、FASTの特性を活かしたオンボーディングの実現に向けて継続的に取り組んでいきます。
おわりに
本記事では、FASTにおけるオンボーディングについて、メンターとメンティーの両方の視点から共有しました。
FASTは超軽量なフレームワークであり、最低限のルールしか決まっていません。それゆえに自律性が求められます。一方で、新しく入ってきたメンバーがいきなり自律性を発揮するのは難しい側面があります。この課題に対して、ログラスではオンボーディングのプロセスの見直しと仕組み化を進めることで解決を図っています。
FASTの良さを活かしながら、より効果的なオンボーディングの実現を目指していきたいと思います!
次回の「#私から見たFAST」シリーズ第2弾は、「領域横断チームメンバーとFAST」というテーマで、フロントエンド領域を得意とするエンジニアがFASTとどう向き合ったかを紹介したいと思います。お楽しみに!
イベント案内
7月にアジャイルやFASTをテーマにしたイベントを開催します!
どちらもオンライン / オフラインのハイブリッド開催で、オフラインでは懇親会もご用意しています。ぜひご参加ください!
7月17日(木)19:00- 「アジャイル×AIの今と未来を語る」日本にアジャイルを広めた先駆者・平鍋氏とログラスCTOが「アジャイル × AI」をテーマに対談します。
FASTについてもテーマに取り上げ、両者の視点から語ります。
7月24日(木)19:00-「Loglass Tech Talk vol.6 FAST実践のリアル〜壁にぶつかり、悩み、試し続けた1年間〜」FASTを実践した1年間のリアルな苦悩や試行錯誤を、エンジニア、QA、PdM、デザイナーといった各ロールの視点から発信します!