PdMとデザイナーが感じた「FAST」導入の1年間 〜戸惑いを乗り越え、見えてきたもの〜

こんにちは、株式会社ログラスでプロダクトマネージャーをしております宮本(@oju8)と、プロダクトデザイナーをしている高橋(@NEKO_NINGENN)です。

ログラスでは「Loglass 経営管理」プロダクトにおいて、2024年8月より「FAST」というアジャイル開発フレームワークに挑戦しています。
日本ではあまり前例のないアジャイル開発フレームワークであり、プロダクトマネージャーやデザイナーの取り組み方にも大きな変化をもたらしました。

本記事では、FAST導入から現在を振り返り、現場でFASTによるアジャイル開発を経験してきた私たち(PdMの宮本、デザイナーの高橋)2名の視点から、率直な所感や気付きをお伝えします。

PdMの視点:広がるスコープと、全員で取り組むプロダクトマネジメント

Writer: 宮本

ログラスでPdMをしております、宮本(@oju8です。
今回はFAST導入とその変化について私なりにまとめさせていただきます。

「Loglass 経営管理」のプロダクトチームにFASTが導入される前は、3つのスクラムチームが並列でプロダクト開発を行なっていました。それが2024年8月、FASTの導入で1チームへと統合されるという大きな変化がありました。

当時、FASTを導入するに至った経緯や想いについては、昨年の「開発生産性Conference 2024」で登壇した、伊藤(当時VPoE・現CTO)の講演資料がありますので、併せてご覧ください。

正直なところ、当時はなぜFAST導入という大きな変化を行うのか、その意図が完全に理解できておらず、戸惑いを感じていました。

以前は担当チームのバックログを見れば全体感が把握できる状態でしたが、全体を1チームで見るようになったことで、PdMとして見るべき範囲が尋常じゃなく広くなりました。

「プロダクトの未来(ロードマップ)」について考えることはもちろん、目下取り組みたいユーザー課題解決のための施策についても考える必要があります。

さらに、不具合発生時の品質問題対応にも当然向き合う必要があり、機能開発以外の課題にも対応する必要が出てきました。今もプロダクトマネージャーが少ない状況ですが、当時は私含めて2名のPdMで臨機応変に対応する必要があり、目の前の事柄への対処から中長期的な取り組みまで、広範囲な領域を考え意思決定する場面が増えました。

こうした広範な領域を見る難しさは、導入当初から今も感じています。

PdMとしての視座が自然と上がった

そのような中で、プロダクト開発をスムーズに進めるために掴んだヒントは、プロダクトの方向性や進捗を繰り返し共有することの重要性です。

「プロダクト戦略」や「次に取り組みたい課題」といった重要な情報は、一度伝えただけではなかなか全員に浸透しません。皆が同じ認識を持ち、前に進むためには、時間を確保して何度も繰り返し説明することが非常に大切だと実感しています。特に「FAST ミーティング」での会議体などを活用し、根気強く共有を続けることが鍵だと考えています。

「FASTミーティング」のアジェンダの1つに「鼓舞タイム」と呼ばれる、メンバーを鼓舞するための時間があるのですが、個人的には「方針を揃えていく」場として捉える方が、その本質を表していると考えています。

FASTという新しいアジャイル開発フレームワークに携われることは、これまでのスクラム開発とは異なり、私にとって新しい経験であり率直に面白いと感じています。

特にプロダクト全体のことを考える視点が高まったことは、非常にポジティブな変化です。

以前は担当領域に限定して考えることが多かったのですが、全体を見るようになったことで、プロダクト全体の方向性や、機能の優先順位付け、ビジネスサイドとの折り合いの付け方など、PdMとしての視座が自然と上がったと感じています。

これはFASTの導入によって得られた大きな収穫であり、難しさとは表裏一体の面白さだと感じています。

プロダクト組織全体でもっと顧客理解を深められるようにしていきたい

今後の展望として、いま最も重要だと考えているのは、顧客理解をPdMだけではなく開発組織全体で深めていくことです。

個人的には、プロダクトマネジメントは「プロダクトマネージャー」という名前がついているからPdMだけがやるのではなく、開発に関わる全員で取り組むべきだと考えています。

その根幹となるのが、お客様の理解です。

現状、顧客理解は組織全体として弱い部分があると感じており、その原因はPdMの能力だけでなく、顧客理解を深めるための仕組みが存在していないことや、顧客からの一次情報の共有方法が定まっていないことなど、様々な観点からの課題があります。 こうした課題を一つずつ解決し、プロダクト組織全体で顧客理解を深められるようにしていきたいです。

もう一つは、PdM組織以外の方々との連携です。エンジニアリングマネージャーやビジネスサイド、そしてデザイン組織といった、他の組織・部署との連携を強化していくことです。

私がマネージャーになったこともあり、今後は他のチームや組織と積極的に連携し、何を共通の課題として捉え、どう解決していくか、組織全体として足並みを揃えて進めていくための仕組みを作っていきたいと考えています。

こうした連携を通じて、プロダクト組織はもちろん、FASTも含めた開発組織全体としてプロダクトの成功に貢献していけるよう、取り組んでいきたいです。

プロダクトデザイナーの視点:変化の波に乗る難しさと、自律性が生む面白さ

Writer: 高橋

プロダクトデザイナーの高橋 (@NEKO_NINGENN) です。今回「私から見たFAST」というテーマで、プロダクトデザイナーとして1年弱、FASTで取り組んできた所感を綴りたいと思います。

アジャイル未経験、入社してすぐFASTへ

私がログラスに入社したのは、まさにFASTが導入される直前でした。入社してまだ2ヶ月というタイミングで、かつ前職がウォーターフォール開発だったため、ようやく慣れてきたスクラムのリズムから一気に環境が変わったことに、まず大きな戸惑いがありました。

「何がなんだか分からない」というのが正直なファーストインプレッションでした。

特に大変だったのは、チーム編成が非常に頻繁に変わっていくことです。

経営管理プロダクトのFASTでは、「バリューサイクル*1」を2〜3日としています。
そのため、時には2日でチームが解散・再編成されることもあり、入社2ヵ月の私は、初対面のエンジニアの方々と即座に協力して開発を進める状況に何度も出くわしました。

お互いをよく知らない状態から始まり、即興的に開発を進め、「お疲れ様でした、またね」というサイクルに慣れるのに最初は苦労しました。
入社したばかりで会社に慣れることと、FASTという新しいフレームワークに慣れることが同時に進行し、とにかく慣れることに日々必死だった感覚があります。

経験を分かち合い、学び合え

入社当時の私は「レポート」と呼ばれる、「Loglass 経営管理」のメイン機能の概要は把握していましたが、それ以外の機能は理解が浅い状態でした。

FAST導入後には、データを取り込む機能など、新しい機能領域のデザインを担当することになりました。

FASTミーティングは、OST(オープン・スペース・テクノロジー)形式で行われる、次のバリューサイクルの活動を決めるミーティングで、自らの意思でバリューサイクル内のチームに出入りすることができます。

自分の意思で新しい機能領域のデザインで価値貢献しようと選んだのですが、キャッチアップに時間がかかり、キャッチアップだけで1つのバリューサイクルが終わってしまい、何も追加のバリューを出せないという状況もありました。

FASTのスピード感に乗れないこと、そして入社した会社でどうバリューを出していけば良いのかという不安も重なり、非常に焦りを感じたのを覚えています。

こうした戸惑いを乗り越え、少しずつ開発を進められるようになったきっかけの一つは、チームの流動性を少し下げて、メンバーを固定する期間があったことです。メンバーが毎回変わると、チームとして共通の「リズム」が生まれにくく、その都度リセットされてしまいます。

しかし、一定期間同じメンバーで活動することで、チームならではの振り返りの仕方など、開発のリズムが自然と出来上がり、進めやすさを感じるようになりました。

FASTの原則の1つとして「経験を分かち合い、学び合え」というものがあるのですが、まさに日々のバリューサイクルから得た経験から学び、共有・蓄積されていくことで自身もチームも成長していくことを実感しました。

FASTという新しいフレームワークには、難しさだけでなく面白さも多くあります。特に、その自由度の高さが、メンバーの能力を半ば強制的に引き上げてくれる点は面白いと感じています。

前職のウォーターフォール型の開発では、プロセスや承認フローがしっかり決まっており、それに従っていれば問題なく進みますが、「もっとこうしたら良くなるのでは?」といった自律的な提案や変更の機会はほとんどなく、提案する際はかなり慎重に行う必要がありました。

FASTでは、「こうすべきだ」と思った人が自由に発信・提案し、変えたい意思がある人が自分で提案して進め方を変えていける文化が当たり前にあるのは素晴らしい点です。

また、学びの共有が非常にポジティブに行われていることも印象的です。「学び(しくじり)」のような、うまくいかなかった経験もオープンに共有され、チーム全体で学ぶ姿勢があります。
これまでの職場では、こうした学びの共有は特別なイベントでなければ難しかったのが、FASTでは日々の開発の中で気軽に共有できる点が、チーム全体が成長できるフレームワークになっていると感じさせてくれます。

今後の展望として、プロダクトデザイナーとして「使い勝手の検証・改善」を強化していきたいと考えています。

現状、チーム単位での検証が十分ではないと感じており、リリース前や実装前に「この使い勝手で本当に良いか」をしっかり検証するプロセスを回していきたいと考えています。

まずは小さく始め、成果が出たらFAST内で共有して他のメンバーも巻き込んでいきたいです。

私自身もアジャイル開発に携わってまだ経験も浅いため、もっと理解を深めたい、他の方々の経験談を知りたいという思いから、「スクラムフェス福岡2025」に自発的に参加しました。

セッションやスクフェス参加者の方々との会話を通して「スクラムやFASTは単なる開発手法ではなく、職種を超えて価値を届ける文化そのものなのだ」と気付けたことが大きかったです。これからもアジャイル開発への理解をもっと深めていきたいと考えています。

また、FASTコレクティブを超えて組織レベルで取り組みたいこととして、経営管理以外のプロダクトを担当するデザイナー間の連携を強め、デザイン品質の底上げを目指したいです。

「Loglass 経営管理」のコレクティブの周囲には、新規事業等、他プロダクト領域も存在します。
マルチプロダクトの視点、さらにはデザインチーム全体としてユーザーテストなどの取り組みを広げ、組織的に使い勝手の品質向上に取り組んでいくことが重要だと考えています。
そこから得られた学びは、コレクティブ全体にも積極的に共有していきたいです。

来年の今頃、自分自身、プロダクト組織、そしてデザインチームがどのような形で成長しているかが楽しみです。

おわりに

Writer: 編集部

プロダクトマネージャーとプロダクトデザイナー双方から、FAST導入によるプロダクト開発体制の変化に伴い、導入当初は戸惑いや難しさを感じた一方で、プロダクト全体の視座向上、自律性の促進、そしてポジティブな学びの共有文化といった、多くのポジティブな側面も受け止めています。

今後は、顧客理解の開発組織全体への浸透と、他組織との連携強化に向けた仕組みづくり等、プロダクト開発をさらに加速させるための重要な鍵となっていくでしょう。

次回の「#私から見たFAST」シリーズ第4弾は「FASTを導入してみたログラス開発チームの変遷」というテーマで、導入から現在に至る変化や取り組みをアジャイルコーチ視点で紹介していきます。次回もお楽しみに。

イベント案内

7月にアジャイルやFASTをテーマにしたイベントを開催します!
どちらもオンライン / オフラインのハイブリッド開催で、オフラインでは懇親会もご用意しています。ぜひご参加ください!

7月17日(木)19:00- 「アジャイル×AIの今と未来を語る」日本にアジャイルを広めた先駆者・平鍋氏とログラスCTOが「アジャイル × AI」をテーマに対談します。
FASTについてもテーマに取り上げ、両者の視点から語ります。

7月24日(木)19:00-「Loglass Tech Talk vol.6 FAST実践のリアル〜壁にぶつかり、悩み、試し続けた1年間〜」FASTを実践した1年間のリアルな苦悩や試行錯誤を、エンジニア、QA、PdM、デザイナーといった各ロールの視点から発信します!

*1:*1: バリューサイクル: FASTにおける活動サイクル。スクラムでいうスプリントに相当する概念。バリューサイクルの変わり目で「FASTミーティング」を実施しています。