こんにちは、株式会社ログラスの笹川尋翔です。
熱気あふれる1日目に続き、「スクラムフェス金沢2026」の2日目の模様をお届けします!
なお、本イベントは複数の部屋に分かれて同時にセッションが開催されるマルチトラック形式となっていました。魅力的なプログラムが裏で同時に進行しており、どれを聴くか非常に迷ったのですが、本レポートでは私が実際に足を運んで話を聴き、熱い刺激を受けたセッションに絞ってその学びをお届けします。
2日目のタイムラインも、地方でのリアルな開発現場の苦悩から、コミュニティの持続性に関する議論、組織論、心理学的なアプローチまで、非常にディープでバラエティ豊かな内容でした。1日目で得た「心理的安全性」や「AI時代の上流工程の重要性」という視点をさらに深めつつ、現場にどう活かしていくか、生々しい知見をレポートします!
真のチームになることの難しさ
2日目のスタートは、株式会社デジタルバリュー様の奥村さんと、株式会社永和システムマネジメント様の藤田さんによるセッション「チームは最初からチームじゃない 〜石川県の地方銀行ネットバンキング開発で育ったチームの話〜」です。
北國銀行様の子会社として、BtoBやBtoCのインターネットバンキング開発を担うチームの、長期間にわたるチームビルディングの歴史が語られました。
困惑から始まったアジャイルへの挑戦
5年前、プロジェクトにジョインした当時のチームは、以下のような課題を抱えていたと言います。
- 「お客様が求めているアジャイル」の姿が分からず困惑
- スプリントゴールが設定されていない
- 個人単位でタスクを管理しており、チームレベルでの議論ができない
- 頻繁な組織編成の変更により、メンバーが意見を言いにくい雰囲気がある
こうした状況を打破するため、チームは10名ほどで集まり、「私たちが目指す姿」をバックキャスティング(未来の理想から逆算する手法)で明文化するディスカッションを行いました。さらに、チームでキャンプを実施するなど、業務外での密なコミュニケーションを通じて関係性を構築していったそうです。

また、プロジェクト管理における「バッファ(余裕)」の扱い方についても言及があり、「バッファが多すぎると存在意義が形骸化してしまうため、不確実性についてはマネジメント層へ素直に報告し、共有した方が良い」というリアルなアドバイスが印象的でした。
「理想の明文化」がチームの視座を上げる
1日目のセッションでも「最初に理想のチーム像を描くこと」の大切さが語られていましたが、今回の地方銀行の事例でも全く同じアプローチが成功の鍵を握っていました。 メンバーが個人タスクに終始してしまうのは、チームとしての共通の目的地(ゴール)が見えていないからです。バックキャスティングで「目指す姿」を形にし、さらに不確実性を隠さずオープンに報告できる関係性を作ること。これこそが、単なる「個人の集まり」を「真のチーム」へと変貌させる一歩と言えます。
技術コミュニティの会話の壁を乗り越えるには?
続いては、青木さんによるセッション「人見知りなHUBおじさんが会話のハードルを超え、今度は誰かの踏み台になろうとする話」です。
勢いをつけ、ハードルを下げる工夫
青木さんは過去の業務での経験から、会話に対する心理的障壁が非常に高かったと言います。そんな状態から、いかにしてコミュニティに飛び込み、周りと繋がっていったのか。その実践的なテクニックが共有されました。
- まずは、少人数・アットホームなイベントから参加してみる
- 「相手が自分のことを認知してくれている」状態を作る
- 面白い自己紹介に全力を注ぎ、相手に長い間覚えてもらう
- 誰でも参加しやすい地域コミュニティに顔を出し、カジュアルさをアピール
心理的なハードルを超えるためには、「飛び込む勢いをつけること」と「自己紹介の工夫などでハードル自体の高さを下げること」の掛け合わせが大事であるというお話は、多くの参加者の共感を呼んでいました。
自己開示が生み出す、現場の心理的安全性
小さなコミュニティに参加するという小さなきっかけを作り、面白い自己紹介などで「まず自分を認知してもらう」というアプローチは、チーム開発における心理的安全性づくりにもそのまま応用できそうです。一方で、近年では地方の技術コミュニティの活性化が課題であるという話も聞きます。これは、組織のコミュニティに対しても当てはまる話かもしれません。様々なコミュニティの「持続性」を担保しつつ、同時に自分のスキルも磨いていくというアプローチを取ることで、自分もチームも成長できる環境が作られるはずです。
「ちょっと苦手な人」と対話する方法
続いては、堀部さんによるセッション「ちょっと苦手だなっていう人と対話をするためのはじめの一歩」です。
組織で動く以上、どうしても「この人、ちょっと苦手だな」「話しにくいな」という相手に遭遇することは避けられません。そんな時の実践的なアプローチが紹介されました。
一つのアクションですべてを解決しようとしない
書籍に書かれているような理想的なコミュニケーション(丁寧な根回しなど)をそのまま実践しようとしても、現実は簡単ではありません。堀部さんは、以下のような現実的なステップで対話することを提案されていました。
- 遠くから観察する: 相手がなぜそのような行動をとるのか、一歩引いて見てみる
- 普段の立ち振る舞い: 挨拶など、日常の些細な行動から気を配る
- 味方を見つける: 1人で抱え込まず、誰かに助けてもらう
- 捨てる決断: 普遍的な「普通の定義」など存在しない。自分が関わらないこと、諦めて捨てることを決めるのも一つの正解
足し算と引き算の思考を使い分ける
チーム開発において、全員と完璧に分かり合おうとすると疲弊してしまいます。「一つのアクションで解決を目指さない」というアドバイスは、非常に救いになる視点です。「相手と仲良くなる」ことが目的ならば、挨拶などの小さな一歩を積み重ねつつ、どうしても噛み合わない場合は「自分が関わらない領域を明確にする」という引き算の意思決定も、チームを健全に保つための重要な戦略の1つです。
「興味駆動」と「目的」に応じたスクラムの形
午後は、学生プロジェクトでスクラムを実践した事例「いつ学生は全力で取り組んだのか 〜学生プロジェクトでスクラムを回して気付いた興味駆動のポイント〜」を聴講しました。
学内カフェの運営(卒業式や入学式、学園祭などの限られたタイミングでの営業)において、インターン経験を活かしてスクラムを導入したものの、最初は全く機能しなかったという失敗談から始まるセッションです。
失敗の原因は「目的」のミスマッチ
なぜ一般的なスクラムが機能しなかったのか。その本質的な原因は「プロジェクトの目的の定義」にありました。
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一般的なスクラム |
学生プロジェクト |
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最大の目的 |
プロダクト価値の最大化 |
学び・経験の最大化 |
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原動力 |
ビジネス価値 |
興味・好奇心 |
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課題 |
スコープの肥大化 |
モチベーション低下 |
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重視すべきこと |
ベロシティ |
興味を中断させないこと |
学生は「やることが多すぎるとモチベーションが続かない」という特性を持ちながらも、基本的には締め切りと興味・好奇心という2つの軸で動いていました。 それにもかかわらず、見積もりや可視化、振り返りといったスクラムのプロセスを形式的に当てはめてしまったそうです。その結果、改善サイクルがうまく回らず、見積もりが甘くなり締め切り駆動の開発になってしまったとのことでした。興味や好奇心のサイクルを中断させないスクラムの形を模索することの大切さが語られました。
フレームワークを「目的」に合わせて調整する
教科書通りのスクラムをそのまま現場に持ち込んでも上手くいかない典型例であり、非常に学びの多いセッションでした。 私たちのプロダクト開発でも、「このスプリントの真の目的は何か(新機能の検証なのか、技術的な学びなのか、あるいはデリバリーの速度なのか)」によって、スクラムのプロセスの重み付けを変える必要があります。フレームワークに従うことが目的ではないことを理解し、チームのモチベーションの源泉(興味や達成感)を阻害しない設計をすることが重要です。
人に依存しない組織を作るための仕組み
ここからのセッションは、参加者が主体となる「ワークショップ形式」で進行しました。その1つ目が、非常にユニークな組織論を展開するセッション「RALGO: 組織の暗黙知をアルゴリズムとして扱う」です。
あらゆる場面で適用できるアルゴリズムを作る
「これからの少子化や不確実性の高い時代に立ち向かうために組織として重要なのは、人(主体)の熱量と、それを支えるアルゴリズム(仕組み)である」という大胆な思想が語られました。組織の階層構造は解決の手段の一つに過ぎず、本質ではないという見方です。
このセッションでは、紙とペンを用いたグループワークが行われ、提示されたテーマに対してチームでディスカッションをしながら、組織のアルゴリズムを可視化していきました。
属人性を排除する「判断の仕組み化」
アジャイルでは「プロセスよりも個人との対話」が重視されますが、組織がスケールしていくフェーズにおいては、人が本質的な対話や意思決定に集中できるよう、共通の「判断をアルゴリズム化(仕組み化)する」というアプローチも重要です。「こういうケースはどうする?」と具体的に線を引いていくワークを通じ、「〇〇さんが良いと言ったから」という属人性に依存せず、誰もが迷わずに動ける土台を作ることで、人と組織が変化に強くなるのだと考えます。
チームの「遠慮」を紐解く
2日目の最後を締めくくる2つ目のワークショップは、「遠慮のないチームをどう育てるか?」というセッションです。こちらは、システムコーチングを用い、参加者全員で実際に身体を動かしながら議論を深めるという活発なスタイルで行われました。
遠慮と関係性の四毒素
チームの中で生まれる「遠慮」がプロダクトや組織に与えるネガティブな影響を理解するため、ただ頭で考えるだけでなく、メンバーとの距離感を変えるなどの身体的なアプローチも活用してそれぞれの関係性の雰囲気を体感していきました。その中で、システムコーチングの基盤となる「関係性の四毒素」が解説されました。
- 非難(例: 相手を責める)
- 防御(例: 自分の行動を正当化する)
- 侮辱(例: 相手を見下す)
- 無視、逃避(例: 対話を拒む)
これらの毒素がチーム内に放置されると、メンバーは心理的ダメージを避けるために自己防衛に走り、結果として「本音を言わない遠慮」が生じてしまいます。

ワークショップでは、部屋の中で実際に「遠慮」が生じている状態の距離感を再現し、それぞれの関係性の雰囲気を体感していきました。そこで語られた「毒素は完全にはなくならないが、まずはチーム全員が毒素の存在に気づき、その影響を軽減する方法を知っておくことがチームを育てる上で不可欠である」というメッセージが印象に残りました。
遠慮を可視化する
「遠慮」と聞くと一見美徳のように思えますが、スクラムにおいては「必要な対話からの逃避」になり得ます。 チームの関係性を守ろうとするあまり本音を言えない状態は、長期的にはプロダクトの妥協に繋がります。これを防ぐために、スクラムマスターやリーダーは「透明性」を意識し、メンバーが安心して問題提起できるような雰囲気を作っていく必要があると思います。
まとめ: アジャイルとしてのスクラムとは
スクラムフェス金沢2026を通じて、私はある一つの根本的な問いを考えていました。それは、「結局のところ、アジャイルとしてのスクラムとは何なのか?」ということです。
スクラムは、単なる進捗管理のツールでも、開発を効率化するための固定されたプロセスでもありません。その本質は、「不確実性が高く、正解のない状況において、人と人が本音で繋がり、対話と実験(検査と適応)を繰り返しながら、共に価値を創り出していくための行動規範」です。
1日目のコミュニティの歴史から、2日目のリアルな苦悩、組織論、身体を動かしたワークショップまで、一見バラバラに見えるセッションの根底には、すべてこの「行動規範」がありました。
このイベント全体を通じて見えてきた、アジャイルの本質を体現するために現場で実践すべき行動規範をまとめます。
「完璧さ」を手放し、不確実性を可視化する
アジャイルにおける「検査と適応」の前提は、すべてがオープンであるという「透明性」です。しかし、多くの現場では「失敗したくない」「完璧でありたい」という心理が働き、これが透明性を曇らせます。
2日目に語られた「不確実性をマネジメント層へ素直に報告する」ことや、1日目の「優れたエンジニアがライブコーディングで困惑する姿を晒すことで生まれた圧倒的な心理的安全性」のように、あえて完璧さを手放すことで、不確実性が見えるようになることもあります。
関係性の壁を越え、本音の対話を創り出す
アジャイルソフトウェア開発宣言の第一の価値は「プロセスやツールよりも個人との対話」です。しかし、2日目のワークショップで体感したように、私たちは「関係性を守るための遠慮」という名のもとに、本音の対話から逃げてしまいがちです。
積極的な自己紹介で相手との会話のハードルを下げること、苦手な人に対して「遠くから観察し、日常の挨拶から変えていく」ことのように、関係性の壁を超え、本音の対話をしようとする姿勢が重要です。
チームで方法を改良する
スクラムチームが目指すべきは、誰か一人のヒーローに依存しない「自己組織化」です。属人化された熱量や能力だけに頼るチームは、その人がいなくなった瞬間に崩壊してしまいます。 本レポートで紹介した、チームが「目指す姿」をバックキャスティングで明文化した事例や、学生プロジェクトにおける「目的」の再定義、そして「判断のアルゴリズム化」といった試みは、まさに人に依存しない共通の目的と仕組みを作るためのアプローチです。
これらの例からも分かる通り、環境の変化に強いしなやかな組織を生み出すには、一般的なフレームワークをそのまま当てはめるのではなく、現場の課題に合った形へと変換していく姿勢が重要です。
最後に
スクラムフェス金沢2026で得た最大の収穫は、フレームワークの裏側にある「人間へのアプローチと行動の変革」の重要性を再認識したことです。
どれだけ綺麗にスプリントを回していても、そこに「完璧さを手放す勇気」「遠慮を越える対話」「人に依存しない仕組み」がなければ、それは形骸化したスクラムに過ぎません。
私たちの組織がどのようなフェーズにあろうとも、これらの行動規範を普段の活動に落とし込み、実験を続けていくこと。それこそが、真のアジャイルを体現する方法だと考えています。