こんにちは、株式会社ログラスの笹川尋翔です。弊社では、経営管理SaaS「Loglass」を展開しており、日頃からプロダクト開発においてアジャイルやスクラムを取り入れた開発を行っています。その一環として、先日開催されたスクラムイベント「スクラムフェス金沢2026」に参加してきました!

大学の同じ課外活動グループのメンバーでした
スクラムフェス金沢は2024年から石川県で開催されているイベントです。2026年のスクラムフェス金沢も、全国から熱い実践者たちが集まり、会場は熱気に包まれていました。本記事では、現地で得たアジャイルやスクラムに関する知見や、私たちが「これから現場でどう活かすか」という学びをレポートとしてお届けします。
地方で技術コミュニティイベントを続ける -これまでに見えてきたこと・これから-
1日目のキーノートスピーカーは、北陸のエンジニアコミュニティ「BuriKaigi」でお馴染みの加藤さん、鈴木さんによるキーノートです。地方でコミュニティを継続し、盛り上げていくためのリアルな知見と、コミュニティがもたらす熱量についてお話しいただきました。
「目的」を作り、外から人を呼び込む
加藤さんはこれまで様々な技術イベントを企画されてきたそうですが、その中でも「BuriKaigi」は大きな成功を収めたイベントだったと言います。
当初は営業や採用、外注先開拓などを目的に勉強会をスタートしたものの、SNSなどの普及によってプレイヤーが可視化されるにつれ、「地方にはエンジニアがほとんどいない」という厳しい現実を突きつけられたそうです。
そこで発想を転換し、「地方で開催する目的を自分たちで作ればいい」と考えました。折しも北陸新幹線の開通という大きな追い風もあり、「そうだ、北陸にはブリがあるじゃないか!」という驚くべき発想から「BuriKaigi」が発足しました。まさに「ブリでエンジニアを釣る」という戦略が形になった瞬間でした。
その後、JAWS-UG北陸新幹線や、300人以上を集めた「JAWS FESTA 2025 in 金沢」などへ展開していきますが、面白いことにJAWS FESTA 2025の北陸三県からの参加者は全体の約10%ほどだったそうです。地方開催でありながら「外から人を呼び込む」ことに成功しているのが、このコミュニティの強みだと感じました。
また、2025年から2026年にかけて、BuriKaigiの参加者数が1年で約100人も増加したとのこと。加藤さんはこの背景として、
- SNSやイベント検索サービスによる発見機会の増加
- リモートワーク中心の生活による、オンライン活動での孤独感の増加
という仮説を立てられていました。今後は、地方と東京のエンジニアが交わり、互いにエンパワーメントしていくために「技術コミュニティの境界」を超え、より多様な人々が集まる場を作っていきたいという展望が印象的でした。
なぜ私たちは「わざわざ地方のイベント」に惹かれるのか?
加藤さんのお話の中で「JAWS FESTA 2025の参加者のうち、地元の方は約10%だった」というデータは非常に衝撃的でした。地方開催でありながら、9割近くが外(東京など)から来ている。これはものすごい逆転現象です。
東京にいると、良くも悪くも技術イベントが日常の延長線上にあり、情報が溢れています。しかし、今回のスクラムフェス金沢やBuriKaigiのように「わざわざブリを食べに行く」「イベントに参加するついでに金沢観光をする」という明確な旅の目的があることで、参加者のコミットメントや熱量が一段上がっているのを感じます。
加藤さんが仰っていた「リモートワークによる孤独感の増加」という仮説も面白いです。オンラインで効率的に開発が進む時代だからこそ、私たちは「わざわざ遠出をしてでも、同じ熱量を持った仲間とリアルに泥臭く語り合いたい」という、一種の熱量に対する飢餓の気持ちを抱えているのかもしれません。地方コミュニティが持つ引力は、これからの時代のエンジニアの生き方に大きなヒントをくれている気がします。
プログラミングを「遊び」に変え、心理的安全性を生み出す
続いて登壇された鈴木さんは、技術コミュニティでの活動をきっかけにMicrosoft MVP Awardを受賞された経歴を持ちます。C#に深く傾倒し、MVPを受賞し、先輩と意気投合してBuriKaigiへと繋がっていったそうです。
鈴木さんのお話の中で特に興味深かったのが、BuriKaigiの名物企画でもある「ドキドキLive Coding」の裏側です。 これは、その場で出題されたアルゴリズム問題に対して、画面をシェアしながら即興でコーディングする競技。ですが鈴木さん曰く、「実質的には、回答者が問題を解けずに困っている様子を周囲が楽しむような、遊び心のある企画です」とのこと。
この企画には、コミュニティ運営における重要な気付きが含まれていました。
- 登壇者の気持ちが「C#面白い」から「プログラミングそのものが面白い」へと変化したことで、より多くの聴衆に受け入れられるようになった。
- ライブコーディングで「優れたエンジニアでも問題を解けない姿」をあえて晒すことで、参加者全体の心理的安全性・親近感が爆発的に高まった。
プログラミングを仕事や勉強の枠から「遊び」に変えていくこと。それこそが、自然と人が集まり、コミュニティが活性化する秘訣なのだと深く納得させられました。

「完璧ではない姿」がもたらす、本当の心理的安全性
アジャイルやスクラムの文脈において「心理的安全性」という言葉は毎日のように使われますが、鈴木さんのお話にあった「優れたエンジニアでも解けない姿をあえて晒すことで、圧倒的な心理的安全性が生まれた」というエピソードには、ハッとさせられました。
現場における心理的安全性とは、単なる「人に優しい環境」ではなく、「自分の弱みや分からないことをオープンにできる環境」であるはずです。
チーム開発、例えばモブプログラミングなどの現場でも、シニアエンジニアやスクラムマスターが「完璧な姿」だけを見せようとすると、ジュニアメンバーは心理的な壁を感じてしまいます。あえて「自分もここが分からない」「一緒に悩もう」という姿を見せ、プログラミングを一種の遊びに変えていくこと。これこそが、チームの良い雰囲気を作り、挑戦を加速させる鍵なのだと感じました。
スポンサーセッション
続いては、スポンサー企業様による共同セッションです。社内サービスの開発現場における、生々しくも再現性の高いスクラムの実践知が共有されました。
成功の鍵は「理想のチーム像」を最初に描くこと
このプロジェクトが成功した大きな要因として、開発の初期段階で「チームの理想像」を徹底的に議論したことが挙げられていました。彼らが定義した理想のチームとは、以下のようなものです。
- 心理的安全性が高い
- 情報がオープンである
- 単一のチームで意思決定ができる
- 役割や所属の間に壁がない
「腹の探り合いをやめ、全員が本音で話せるチームを作る」という目的のために、インセプションデッキを活用したり、スクラムマスターやエンジニアが開発の「How(どう作るか)」だけでなく「Why(なぜ作るか)」の議論にまで深く入り込んだりしたそうです。
AI時代の新たな課題と「対面」の価値
さらに、直近のリアルな課題として「AIによって下流工程(コーディングなど)が高速化した結果、上流工程の設計がリードタイムに与える影響が相対的に大きくなってきた」という、現代ならではの知見も語られました。
また、「対面での密な議論は、リモートワーク派のメンバーから反対されないか?」という問いに対しては、「スクラムイベントがある日は出社日として設定している」とのこと。単なるルールの押し付けではなく、対面で議論することの圧倒的な面白さや、そのスピード感という「価値」を実際に肌で感じてもらい、納得してもらうプロセスを大切にしているというお話が非常に刺さりました。

下流の高速化がもたらす、真のアジャイルの必要性
セッションの中で最もエンジニアとして唸らされたのが、「AIによって下流工程が高速化した結果、上流工程がリードタイムに与える影響が増加した」という指摘です。
GitHub CopilotをはじめとするAIツールの普及により、コードを書く(How)スピードは劇的に向上しました。しかし、だからこそ「そもそも何を、なぜ作るのか(Why)」という上流の設計が、プロジェクト全体の新たなボトルネックとして顕在化してきています。
彼らのチームが、インセプションデッキを用いてエンジニアやスクラムマスターが「Whyの議論」に深く入り込んだり、数時間にわたるスクラムイベントを行ったりした理由は、まさにここにあると感じました。AI時代におけるスクラムの本質とは、下流の効率化ではなく、「上流の不確実性をチーム全員の対話でいかに削ぎ落とせるか」にあるのだと実感させられました。
1日目を終えて
スクラムフェス金沢2026の1日目は、コミュニティの熱い歴史から、大企業の最先端の実践事例まで、多様な学びを得ることができました。
共通して感じたのは、手法としてのスクラムにとどまらず、「いかに人と人の壁をなくし、遊び心を持って本音で対話できるか」がプロダクトやコミュニティを前進させる原動力になるということです。ネット上のドキュメントを読むだけでは決して得られない、こうした「現場の実践者たちの情熱」に直接触れられたことが、今回現地に足を運んだ最大の価値だと感じています。
さて、スクラムフェス金沢2026はこれだけでは終わりません。2日目もさらに濃密なセッションや、現地ならではのワークショップが目白押しでした。
次回の記事では、2日目の様子とともに、1日目で得た心理的安全性やAI時代の上流工程の戦い方というヒントを、「プロダクトの開発現場でどのように活用できるのか?」という疑問に踏み込んでお届けします。
後編のレポートもどうぞお楽しみに!